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特 集

林建協働の推進を目指して

特集写真たかやま林業・建設協同組合 専務理事
株式会社 長瀬土建 代表取締役
     長瀬 雅彦 

はじめに

 岐阜県の飛騨高山地域(白川村含む)は、森林面積が235,000 haと林野率が93%にも及ぶ我が国でも屈指の森林地域ですが、近年における林業の停滞や林業従事者の減少・高齢化等によって、十分な手入れが行き届かない状況となっています。
 このような森林を適正に管理して地球温暖化防止にも貢献するとともに、その豊富な資源の有効活用を図るため、地域の森林組合と建設業者が協働して森林施業の集約化を進め、地域に合った作業路網の整備や高性能林業機械の活用等による低コスト木材生産システムの確立を目指した「たかやま林業・建設業協同組合」が、建設業10社と飛騨高山森林組合の参加を得て平成22年1月に設立され、その後6社の建設業者が加入して現在では建設業16社と1森林組合で構成されています。
 そのねらいは、地域における森林管理不足という課題と不況下にある建設業労働者の雇用安定という課題に対し、これまで連携の薄かった林業と建設業が積極的な協働の下に一体となって森林の管理や計画的な森林整備・木材生産に取り組み、建設業労働者の林業分野での就業促進と同時に木材生産活動の促進等による地域の再生(経済効果の発生)を図ろうとするものです。
 なお、今回の組合設立に当たって参加した建設側企業は、従来から林道や治山、山腹などの森林土木工事を手がけるなど森林整備や路網整備との係わりが深かったこともあり、今回、林業に従事するに際してもあまり抵抗なく参入出来ました。

高性能林業機械での造材状況

林業参入への期待と建設業にできること

  建設業の林業参入を考えた最初の理由は雇用の確保と余剰機械の利用という視点からですが、一方で環境問題等がささやかれる中、林業事業体の人手不足や林内の作業路網整備が大きな課題となっている森林整備には十分対応できるものと感じていました。
 そこで、実際に建設業者が林業に参入した場合具体的に何が出来るのか考えてみました。
  • ・高密度の作業路網の整備
  • ・団地化・集約化・境界明確化の協働作業
  • ・測量及び設計、データ管理への対応
  • ・ベースマシンとしての機械の運転操作
  • ・道づくりの技術

    林業専用道 作設状況(滝ヶ洞線)

  • ・工程、コスト及び実行予算管理、施工管理
  • ・経営マネジメント、技術提案
  • ・安全衛生管理に対する知識

    建設業の安全管理を林業現場に

 以上の内容を「林建協働」を進めるに当たっての課題として考えスタートしましたが、その際、この林業への新規参入への期待と課題について、地元建設業40社を対象にアンケート調査を行っていますので、その内容を参考までに紹介します。

林業参入に期待するアンケート結果

林業参入における課題のアンケート結果

23年度の工事予定

  「たかやま林業・建設業協同組合」のスタートは、前記アンケートにみられるとおり「採算がとれるか分からない」、「林業をあまり知らない」、「初期投資が不明」、「仕事量の確保が不安」という不安含みでのスタートとなりました。現在でもこれらが完全に払拭されたわけではありませんが、飛騨高山森林組合との連携において作業道の作設、間伐、境界確定事業など広範な仕事に取り組んでおり、また、岐阜県の県有林を対象とする「健全で豊かな森林づくりプロジェクト」のプロポーザルが採択されて事業地の拡大が図られるなど、23年度には22路線・延長27kmの作業道開設と77haの間伐、及び421ha(追加予定あり)に及ぶ森林境界調査を行なう計画となっています。

ドイツのフォレスター招聘研修

  平成23年10月の下旬にドイツからフォレスターとオペレーターを招聘することができ、「健全で豊かな森林づくりプロジェクト」で採択された林建協働プロジェクトの団地をフィールドに、路網のルート選定、将来木の選定施業、伐倒技術、屋根型構造の作業道、排水の考え方、排水構造物の施工、林業機械の利用について研修を行いました。
 これまで実際にドイツに何度か視察研修に参加していましたが、今回、私たちの現場で実地研修を受け、合理的で効率的な考え方、施工に関し、地形、地質、気象等全てにおいて違う環境下の中で積み上げてきた経験や検証には非常に驚きました。
 その中でフォレスターから教えられた様々な側面で最適な選択や判断をする際に求められる五つの事柄について紹介したいと思います。
  1. 様々な分野の基本的な原則を把握していること
  2. 知識と経験の豊かさ
  3. 物事を公平に科学的に総合的に分析・思考する力があること
  4. 同じ現場や森林において各現場で一つの手法や一つの解決策を構築する為の演繹的思考能力と応用力があること
  5. 森に対する愛情と将来を受け継ぐ未来の子供たちへの愛情と思いやり

 この五つの事項から生まれたドイツ林業の理念を心に刻み、日本の林業を担う人材の育成が大切であると感じるとともに、卓越したオペレーターによる高性能林業機械操作など実践的な研修成果を今後の林建協働の取組みに活かしていきたいと考えています。

欧州式屋根型構造の作業道(伊西3号線)

ドイツフォレスター(コルプ氏)による研修状況

林建協働への課題

  私たちの「たかやま林業・建設業協同組合」は発足してまだ日も浅く、正に歩きながら森林整備の担い手として独り立ちすべく取り組んでいるところですが、林建協働に関心を持たれる方々に、その先駆けの立場から取組に当たっての留意点等について4つ上げてみました。自省も含め次に紹介したいと思います。

組織の目的を決める
 最初に、林建協働の組織を立ちあげる際の課題としては、まず自分達の組織は何をやるのかを再度確認する必要があると思います。それは路網のみなのか、間伐等、集約化を含めた全ての森林整備なのか、又は新しい分野でのバイオマス関連事業なのか等々を決めなければなりません。

森林組合等との調整が必要
 次に、地域における既存の森林組合、林業事業体との事業区域の棲み分けや連携体制・内容についての調整とともに、新組織設立の経営方針・計画樹立とそれに伴う調整を確実に行うことが必要です。
 特に、業として行う前提となるものは第一に事業地の確保となりますが、これについては制度上の問題も多いことから、まず市有林等のフィールド提供等ついて情報を密にし、これを核に連携して進める必要があります。なお、森林組合との関わりにおいては、行政サイドの支援・指導のあり方が重要になると思います。
 さらに、協同組織を立ちあげる際には全てまかせられる人材(専務理事クラス)の確保が鍵となり、林建協働を進める中での調整役を決めなければうまく進まないと思います。

効率的で安全な作業システムを作ること
 また、林建協働を進める上での技術的な課題は、効率的かつ安全な作業システムの構築ができるか否かにかかっています。まず、採算性、生産性を考えた造材技術はプロセッサ、ハーベスタなのかチェーンソーなのか判断出来なければいけません。また、作業路網の作設についても、排水計画や屋根型構造等の技術、暗渠排水の考え方、水の分散を考え、崩れない道づくりや切土高さを考えた施工、さらには環境対策(生態系)を考慮した土壌保護を考えて施工する事が大切となります。

技術者・技能者の養成が不可欠
 さらに、安定的な素材生産のシステム構築のためには、集材を考えた作業路網の選定が重要であり、その為の森林技術者や技能者の養成、フォレスターのような人材、優れたオペレーター、チェンソーマンの養成も不可欠であり、これらの継続的なスキルアップも必要となります。

終わりに

 

 私たちの林建協働の取組が岐阜県の「地方の元気再生事業」で採択され,2年間にわたる研修を積み重ねて平成22年1月28日に「たかやま林業・建設業協同組合」が立ち上がりました。林業とは非常に奥が深いものであり、まだまだ技術も知識もおぼつかない状況にあります。しかし,地域のインフラ整備と同様に,地域の森林を整備することは地域の安心・安全を守るためでもあり,目指すところは建設業と同じであると感じているところです。
 また、公共事業が減るから急に林業へ転業すると言う安易な考えには無理があります。
中長期的な時間を掛けて建設業だからできるコスト管理、そしてすべてを補助金に頼らないように効率的で、採算性・生産性の高い林業に転換する事を目標に取り組みつつ、複業化で雇用を維持することが必要です。地域で努力する建設業が地域社会を盛り上げ、地域の安心、安全のために必要な公共事業を担わなければならないと考えています。
 ドイツのアルフレート・メーラーが唱えた恒続林思想を象徴するのが、「最も美しい森林は、また最も収穫多き森林」という言葉です。この言葉から連想されるのは、企業にとっても「健全なる企業組織体の恒続」つまり、いつまでも「生き生きとして強健」で、選ばれ続ける企業になることが究極の目標であり、森林と同様、美しい企業はまた収益多き企業となるのではないかと感じています。
 林業の復活がもたらす森の恵みは計り知れません。我々が伐採し利用している立木は先人達の血と汗の結晶であり、我々も後世に良い山を残さなければなりません。たとえ今が大変厳しい時代であっても、山林を巡るあらゆる問題に取り組み、山林が資産として残せるような山づくりをするためにも、山に感謝し、壊れない道を作り、山を守ることを使命として取り組んでいきたいと考えています。

※事務局注釈 : 今回特集の「林研協働」については、全国林業改良普及協会刊行の月刊誌「現代林業」に
平成23年12月号から平成24年4月号まで5カ月連続連載中です。詳細について関心のある方はご覧下さい。

(一社)全国森林土木建設業協会全森建

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